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フォートディベルエの首都、
シュテルーブルに星の数ほどある個人ギルドの一つ、
ZempことZekeZeroHampは騒がしい。
世界最強の魔王が居候しているせいか、全く関係ないかは兎も角として、
喧嘩やくだらないもめごとは日常茶飯事であって、
それを止める世話係の鉄火や紅玲はいつも大変そうだ。
だが、今日はその紅玲が怒って帰ってきた。

「ったく、信じられない!
 危ないったらないわ!」
「どうしたんですかい、姐さん?」
彼女が怒っているのは珍しくないが、
危ない思いをしたとはどういうことか。
居間でくつろいでいた祀が、
心配そうに椅子から立ち上がり、
同じく席についていた敦と鉄火、
カオスも眉を潜めて顔を上げた。

「そこの横断歩道で、また挽かれかけたのよ!
 歩行者優先だっていうのに、ありえん!」
紅玲の怒りはすぐに理解された。
ここより30mほど離れたところに馬車専用道路がある。
馬車は価格も維持費も高額で、
一部の公共車を除けば、市民の移動手段は徒歩が基本だ。
それでも荷物の輸送や移動に馬車が便利なことは間違いなく、
シュテルーブルが人間族最大の都市であることもあって、
専用道では結構な数の運搬車や個人車を見ることができる。
古代文明の遺産と異なり、
馬、もしくはそれに準ずる獣が引くだけあって、
二酸化炭素で空気を汚すことはないが、
ぶつかったら怪我人、下手すれば死人が出るのは変わりない。
従って、専用道路以外の通行は禁じられているし、
横断歩道を横切る歩行者がいれば、
そちらを優先して止まらなければならないなど、
様々なルールが定められている。

しかし、どの時代にも決まりを守れない輩がいるものだ。

示された場所は事故が多発している場所で、
今回は紅玲が横断歩道を半分以上渡っているというのに、
左側から突っ込んできた馬鹿がきて、
全くスピードを緩めないので後戻りしないわけにはいかず、
そのまま通り過ぎたら渡ろうと道路で止まっていたら、
今度は右側からも突っ込んできて、
目の前で急ブレーキをかけた阿保がいたらしい。

「ったく、人がいるのに、
 全くスピード緩めない神経って信じらんない!
 轢き殺しても構わないのつもりなのかね!
 むしろ、自分が事故って痛い目見ればいいわ!」
轢かれかけた事よりも、
スピードを落とそうとしないのが気に食わないらしい。
ガリガリ怒る紅玲に敦と祀も眉を潜め、ため息で答えた。
「なんか勘違いしてんのは、おるかんなー」
「そういう奴からは、免許を取り上げるべきっすよね。」
乱暴な運転は安易に死者を出すことにつながる。
運転者が痛い思いをするのは自業自得かもしれないが、
遺族の悲しみを和らげるものではなく、まして、
他者を巻き込んでしまえば謝罪で済ませられるものではないと、
少し考えれば分からないはずがないのだが。
早くて力強い馬車を運転していると、
優位に立った気がして勘違いするのか、
運転規則を守らないものは、いつの時代もなくならない。
結局、歩行者が注意するしかないのだ。

だが、我がギルドには、
そんな泣き寝入りで済ませる気がない魔王がいる。
「分かった、今から5分ぐらい前だな。
 残留魔力で検索して、該当者に事故る呪いをかけてやる。」
弟子の怒りに大きく頷いて、
カオスがさらっと怖いことを言った。
「出来るんですか、師匠。」
「任せろ。俺を誰だと思っている。
 30秒で特定し、揃って壁にダイブさせてやらあ。」
「やめろ、恐ろしい。」
無表情で師匠の無茶を止めない紅玲と、
普通に危険な発言をするカオスを、
冷静ながらも全力で鉄火が諫めた。
この師弟コンビはキレると当たり前のように危険だ。

挙句、カオスは更に恐ろしい事実を吐き出す。
「何、言ってるんだ。
 そもそも何故、馬車や自動車やらの、
 乗り物系移動手段が普及しないと思う?
 阿保な運転者のせいで事故を増やしたくないから、
 俺が裏で政府に圧力掛けてるんだよ。
 それでも駄目なら、個別に排除するまでだ。」
「だから、この程度の問題で、そういうのはやめろよ!」
「乗物が普及しないのは、
 郊外への道路の設置及び維持が難しいなど、
 普通にインフラのせいだと思ってました…」
うちの居候は多々忘れられがちだが、
魔王の頂点に立つ魔王である。
裏でやってる知りたくない色々具合を暴露され、
半泣きで鉄火が叫び、祀が青い顔で己が認識を改めた。

「ったく、姐さんが烈火の如く怒るから、
 師匠が変なこと言いだしたやないか。」
ただでさえ、うちのギルドは小さな火種が、
大きな炎に変化しやすい傾向にある。
そして、誰が燃えるかによっては炎どころか大爆発だ。
周囲を纏める立場にありながら、
大炎上を呼び起こすのはやめろと敦に叱られ、
紅玲は頬を膨らませた。
「だって、むかついたんだもんー!
 それに鉄火の如く怒るって何よ?」
「『だもん』やないって。
 あと、鉄火の如くなんて言うとらんで?」
どうして彼女はむかついた程度の割に、
言うことが過激ななのだろうか。
合わせて、妙な返しに敦は首を傾げ、横から祀が訂正する。
「『テッカ』じゃなくて、『レッカ』っすよ、姐さん。」
「ああ、なんだ、聞き間違えか。」
納得して紅玲は頷き、思わずと言った体で呟いた。
「でも、鉄火の如くでも、別におかしくないね。」

確かに、鉄火は多々激しく怒っている。
むしろ、常に怒っていると言えなくもない。

暫し沈黙が続き、誰からともなく失笑が漏れる。
「…誰が上手いこと言えと。」
「言い得て妙やね。」
「でも今はそういう場面じゃありませんぜ、姐さん。」
「うん、自分でも、ちょっとやらかした感はある。」
其々苦笑を噛み殺すなか、
鉄火だけが不機嫌に腕を組んだ。
「上手いとか、上手くないとかよりも、
 その表現がおかしくない現状を何とかしようと思ってくれ。」

彼とて好きで怒ってばかりいるわけではない。
わけではないのだが。

しかし、その憤りが報われることは恐らくないだろう。
そう思えばこそ、苦笑は大きなものとなっていき、
ますます鉄火の眉間の皺が深くなる。
「全く、お前らときたら揃いも揃ってだよな!」
皮肉めいた口調で言われても、
改善出来ることと、出来ないことがある。

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